伝統工芸高岡銅器振興協同組合

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WORKS活動実績

先端技術と伝統技術の融合による文化財修復拠点化事業

本事業は、国の地方創生交付金を活用して、平成27、28年度に実施した「法隆寺釈迦三尊像再現プロジェクト」に関わった高岡銅器事業者を中心とするコンソーシアムを構成し、高岡銅器業界固有の鋳物・加工技術を活用した文化財(仏像)等の修復や再現を実現させる新たな事業分野の需要開拓を目指すものとして始まりました。

 

新たな技術(3D)の習得や、鋳造技術・技法を次世代に伝承するためにコンソーシアムの実施体制を整え、情報発信、市場調査の深堀、見本品製作等に取り組むことにしました。見本品製作は、先端技術の活用を要素として、業界ではほとんど導入されていない3D技術を用いて生産の合理化を図り、かつ、現在ではニーズがないために失われつつある伝統技術との融合を図るものとし、さらには、最大限、高岡銅器産地で完結できることを目指しました。

 

明治初期にヨーロッパに輸出され、高い評価を受けた高岡銅器は、その歴史的背景から、高岡市立博物館に所蔵されている約4,000点の高岡銅器図案から明治期の図案を選定することにしました。図案は、①見本品の生産方法、②現物が無い再現の新規性と面白味、③生産技術の要素のある、高岡の銅器問屋・大橋三右衛門へ国から下付された図案「花瓶一対」(1880年下付)に決定しました。

日本語と英語併記のパンフレットはこちら Click here for both Japanese and English pamphlets.

企画アドバイザー:伊東順二(東京藝術大学社会連携センター特任教授)
制作アドバイザー:相原健作(東京藝術大学特任研究員)

 

 

本品製作

1.原型製作 Model Production

見本品は、3D技術と高岡銅器の技術、銅合金で製作。明治期の絵職人が描いたものを、現代の職人が製作することに意義があるとし、再現だけでなく革新的なものをプラスする方向で進めることとなりました。
選ばれた花瓶一対の図案のうち、梅竹の花瓶を製作。正面と裏面に描かれた花木の図案は彫刻で凸面に、側面の眉草模様は象嵌を施すため、従来であれば平面でつくられるところを、工程の短縮を図り、凹面にして原型を製作しました。
彫刻は手作業で彫り、側面は図面からデジタルデータ化してNC加工を使用。図面の計測や図案の線の解釈など、明治期の職人の意図を推測しながら立体化しました。

高岡市立博物館に所蔵されている高岡銅器図案を選定。

選定された 「大橋三右衛門図案 花瓶一対」(1880年下付)

図案をデジタルデータ化し、原型を製作。

 

2.鋳造 Casting

見本品が複雑な形状のため、ロストワックス鋳造法を採用しました。ロストワックス鋳造法は、精密なものを鋳造する場合に主流となっている方法です。原型の周囲をシリコンゴムで流し覆って、ゴム型をつくります。シリコンゴム型に中子を入れて型を合わせ、ワックスを流し込んでつくるのがワックス型です。ここから鋳型をつくるため、ワックス型を手作業で修正します。
修正後にセラミックスに浸し、乾燥させ、蒸気釜でワックスを脱蝋し、鋳型ができます。
見本品の地金には、明治期に使われていたと思われる黒味鋼を採用。これは、銅に白目(アンチモンを主とした金属)を加えたもので、凹凸のある複雑形状や通常使用しない地金の使用により、鋳型作り、注湯には試行錯誤が伴いました。

シリコンゴム型に中子を入れた状態。

ワックス型を細かく修正する。

鋳型の焼成

 

3.仕上げ Finishing

仕上げ工程では、本体の手ヤスリと側面プレートの象嵌が行われました。手ヤスリは、センやタガネやペーパーを使って、鋳肌についている黒皮を細かく取り除く剥き作業となります。センで削り、タガネを打ち込み形を整え、鋳物を補完していきます。
象嵌は、プレート全面に菫ね象嵌を施しました。図案に指示してある通り、金、銀、白四分ー(銅40%、銀60%)、黒四分ー(銅90%、銀10%)の4色の金属を嵌めていきます。嵌め込む金属は、通常糸のこぎりで切断しますが、銀、白四分ーと黒四分ーは、原型製作でのデータを活かし、金属加工メーカーに依頼し、ウォータージェット加工で切断しました。麻精度と時間短縮をねらったものです。
4種類の金属は、それぞれ厚みが違うため、原型の製作時から凹面の深さを設計してあります。図案を見ながら一枚一枚数種類のタガネを使って嵌め込んでいきます。

手ヤスリやタガネで仕上げを施す。

ウォータージェットで切断された白四分ー。

金属は、それぞれ硬さが違うため、タガネを慎重に打ち付ける。

仕上げ前の鋳物表面

 

4.着色 Coloring

象嵌した側面は、伝統着色の煮色で明治期の渋みのある色合いを再現しました。煮色仕上げは、銅合金の表面化成処理方法のひとつで、薬液の中で煮込み、表面に酸化皮膜を形成し、耐候性のある独特な発色に仕上げるものです。煮色仕上げ後、金、銀はほぼ変わりませんが、白四分ーは銀色に近い白色でねずみ色がかり、黒四分ーは黒っぼく光沢のある灰色に発色します。
また、伝統的着色技術を現代の塗装技術で再現する試みにも取り組み、部分的なメッキである「差しメッキ」、塗料や黒染め液等で着色する「塗装仕上げ」を実施しました。
差しメッキには、金と銀のメッキ液はありますが、白四分ー、黒四分ーのメッキ液がなく、ニッケルメッキで色の濃淡を調整し、表現しました。象嵌部分に高品質なメッキを施すため試作を繰り返し、低コスト化、短納期化の実現に挑戦しました。

象嵌した側面を煮色で着色。

煮色仕上がり。深い色合いが特長。

全体を煮色処理してから、唐草模様部分に差しメッキを施す。

伝統着色と現代塗装を施した見本品

 

見本品

今回「先進技術と伝統技術の融合による文化財修復拠点化事業」において、複数の事業者がコンソーシアムを組成し、高岡鋼器業界固有の鋳物・加工着色技術と3D技術等の先端技術を活用した文化財等の修復や再現を実現させる新たな事業分野の需要開拓を目指しました。これが産地のしごとづくり、ひとづくりにつながり、持続的な産地形成と、さらには社会的な課題の解決につながるものと考えております。

花瓶正面/(左)梅竹の図面、(右)鋳造品

 

花瓶側面/(左から)唐草模様の図面、模様:象嵌 全体:煮色着色、模様:差しメッキ 背景:煮色着色、模様:差しメッキ 背景:スプレー塗装

 

制作した見本品を下記の展覧会で展示していただきました。

展覧会「甦るべき明治〜維新を支えた下絵の世界〜」

開催期間:2019年4月4日(木)〜12日(金)
開催場所:大手町プレイス2F カンファレンスセンター前ロビー(東京都千代田区大手町2-3-1)
主催:東京藝術大学COI拠点文化外交・アートビジネスグループ
協力:高岡市、高岡市立博物館、伊東順二事務所
協賛:NTT都市開発株式会社
企画、構成、演出:伊東順二(東京藝術大学社会連携センター 特任教授)
学芸協力:高岡市立博物館
監修:原田一敏(東京藝術大学社会連携センター 客員教授)
相原健作(東京藝術大学社会連携センター 特任研究員)
仁ヶ竹亮介(高岡市立博物館 副主幹学芸員)
空間デザイン:長谷川欣則(東京藝術大学社会連携センター 教育研究助手)
再現下図制作:竹久万里子(東京藝術大学社会連携センター 特任助手)
制作協力:池上留理子(株式会社ジェクスト)
〈お問い合わせ〉TEL 050-5525-2787(東京藝術大学社会連携センター)

展覧会チラシはこちら

 

 

「先進技術と伝統技術の融合による文化財修復拠点化事業」の紹介動画